仙台高等裁判所 昭和28年(ネ)132号 判決
控訴代理人は「原判決を取消す、盛岡地方裁判所昭和二十六年(ヨ)第四五号不動産仮処分申請事件につき、同裁判所が昭和二十六年六月六日した仮処分命令のうち被控訴人と控訴人間の部分を取消す、申立費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決を求めた。被控訴人は当審における口頭弁論期日に出頭せず、控訴の趣旨に対する陳述をしない。
当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人において「本件仮処分は被控訴人がその主張の不動産六筆の所有権に基き右不動産に対する立入禁止及び妨害排除を求めたものであることは争わない。」と述べたほか、原判決摘示の事実と同じであり、疏明方法も原判決摘示のそれと同じであるからこれを引用する。
三、理 由
案ずるに、仮処分命令が発せられた後、債権者において本案の訴を提起することを怠るときは、債務者は仮処分裁判所に対し起訴命令の申立をすることができ、仮処分裁判所において右申立により債権者に対し指定した期間内に訴を提起しなければならない旨の命令を発したのにかかわらず、債権者において右期間を徒過したときは、債務者は仮処分命令の取消の申立をすることができることは民事訴訟法第七百五十六条第七百四十六条により明である。しかし債権者が本案の訴を提起しなくても、債務者自ら、仮処分によつて保全される権利につき消極的確認の訴を提起したときは、債務者はもはや右起訴命令の申立及び仮処分命令取消の申立をすることができないものというべきである。けだし債務者に右のような起訴命令の申立及び仮処分命令取消の申立をする権利を認めた趣旨は、仮処分により保全される権利の存否を実体的に確定することなく放置されるときは、債務者はいつでも仮処分による不利益な状態におかれるから、債務者をして右不利益な状態にあることを免れしめるため債権者に指定した期間内に本案の訴を提起せしめることにあるのであつて、この故に債務者自ら右権利につき消極的確認の訴を提起したときはこれによつて権利の存否が確定せられ、従つてその勝訴の判決言渡を受けた債務者は仮処分の理由消滅したものとして、仮処分命令の取消の申立をすることができるのであるから、この場合には敢て債権者に対し指定した期間内に本案の訴の提起を命ずる命令を求める必要が存しないからである。
本件についてみるに、被控訴人の申請により昭和二十六年六月六日控訴人に対し被控訴人主張の不動産六筆の所有権に基く右不動産に対する立入禁止及び妨害排除の仮処分命令が発せられたこと、控訴人の申立により、昭和二十八年二月十九日、仮処分裁判所から命令書送達後七日の期間内に本案の訴を提起しなければならない旨の起訴命令が発せられ、右命令書は同月二十三日被控訴人に送達されたのにかかわらず、被控訴人において右期間を経過するも本案の訴を提起しないことは、いずれも当事者間に争がない。しかるに右不動産につき債務者である控訴人から被控訴人に対し、昭和二十六年十月十六日東京地方裁判所に被控訴人が、昭和二十六年五月三十日日本製鉄株式会社から現物出資を受けたのは無効であることの確認を求める旨の訴訟を提起したことは、控訴人の争わないところであり、右事実及び成立に争のない乙第一号証に徴すると、右訴訟は右仮処分の目的物である不動産の所有権の消極的確認の訴であることが認められる。しからば控訴人はもはや被控訴人に対し、本件仮処分の本案の訴の起訴命令の申立をすることができないものというべく、たとえ控訴人の右申立により期間を指定して起訴命令が発せられたのにかかわらず、被控訴人において右期間を徒過したとしても、控訴人において仮処分命令取消の申立をすることができないものというべきである。よつて控訴人の本件申立は理由なしとして棄却を免れないものである。
右と同趣旨に帰する原判決は結局相当で本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 村木達夫 檀崎喜作 沼尻芳孝)